200 研究系及び研究施設の現状
電子計算機室
青 柳 睦(助教授)
A -1)専門領域:理論化学、計算化学
A -2)研究課題
a) 高振動励起状態の理論的研究
b) 大気環境化学に関連する素反応の理論的研究 c) 分子軌道並列計算手法の開発研究
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) 高振動励起状態の理論的研究:OC S の紫外光解離に関与する 3 重項励起状態のポテンシャルエネルギー曲面を,状 態平均多参照配置SC F 軌道を基底とした配置間相互作用法(MR -C I)により決定した。HC P分子の電子基底状態及び 励起状態(1
1A”, 21A’, 21A”)のポテンシャルエネルギー曲面と振動回転固有状態の解析を行った。非可積分系におけ る反交差の起源を明確に理解する目的で,簡単なモデル系について半古典的手法を用いた解析を行った。11A”及び
21A’電子励起状態のポテンシャル面に局所的並行構造を見出し,SE P等の実験結果で未解決であった振動回転バン
ドを新たに帰属した。非経験的電子状態計算によりCH3CO → CH3 + CO のポテンシャルエネルギー曲面を解析関 数に最適化し,古典ダイナミックス計算,及びR R K M計算の結果を比較することにより,単分子解離反応の解離速度 が非統計的な挙動を示す起源を調べた。
b) 大気環境化学に関連する素反応の理論的研究:フッ化炭化水素(HF C )またはフッ素化エーテル類とOHラジカルと の反応は,フロンの地球温暖化への影響等に関与する大気化学における重要な素反応である。高精度の非経験的分 子軌道計算によりメタン系及びエタン系 HF C ,フッ素化エーテル類と OH との反応経路を決定し,変分的遷移状態 理論により反応速度定数求めた。シラン及びホスフィンの常温における自然発火のメカニズムには多くの未解決の 課題が残されている。我々は非経験的分子軌道法によりシラン及びホスフィンの燃焼過程に関与する50以上の素 反応について遷移状態の構造と活性化エネルギーを決定し,反応の経路を探索した。その結果シランの反応では,酸 化の2段階目でS iH2 + O2の反応経路にOS iH2O及びOS iHOH 中間体が重要な役割を果たしていることを示した。ホ スフィンの酸化反応では,PH2 + O2から高振動励起された PH2O2が生成され,環状の OPH2O を経て OPH2O に至る 経路と,HPOOH を経て HPO + OH へと分解する経路が競合することを示した。
c) 分子軌道並列計算手法の開発研究:非経験的MC SC F 計算と分子動力学手法を組み合わせ,多原子分子のポテンシャ ルエネルギー曲面の情報を電子状態計算から直接取得するための新たな手法を開発し,モデル計算として,イオン 分子反応C + H3
+
に応用した。MC SC F エネルギー勾配を古典軌道計算の時間ステップ毎に求めることが可能となり, 共有結合の生成・解離,電子励起状態を含む多くの気相素反応過程の動力学研究に応用できるだけでなく,並列計算 手法を導入することにより,生体関連分子,金属クラスクー,固体表面反応等,従来の理論では計算が困難な大規模 系にを応用が可能となる。
研究系及び研究施設の現状 201 B -1) 学術論文
S. NANBU, S. K. GRAY, T. KINOSHITA and M. AOYAGI, “Theoretical Study of the Potential Energy Surfaces and Bound
States of HCP,” J. Chem. Phys. 112, 5866 (2000).
S. KONDO, K. TOKUHASHI, M. SUGIE and M. AOYAGI, “Ab Initio Study of PH2 + O2 Reaction by Gaussian-2 Theory,” J. Phys. Chem. 103, 8082 (1999).
S. KONDO, K. TOKUHASHI and M. AOYAGI, “Ab Initio Molecular Orbital Studies of Isomerization Reaction from c-
OSiH2O to t-OSiHOH,” J. Mol. Struct. (THEOCHEM) 469, 25 (1999).
T. NISHIKAWA, T. KINOSHITA, S. NANBU and M. AOYAGI, “A Theoretical Study on Structures and Vibrational Spectra of C84 Fullerene Isomers,” J. Mol. Struct. 461/462, 453 (1999).
C ) 研究活動の課題と展望
分子の電子状態理論ポテンシャル曲面への応用および分子内ダイナミックスに関る重要な課題の一つである高振動励起 状態の問題を主な研究テーマとしている。電子状態理論の分野では今後,MC SC F 等の電子相関を記述する既存理論と並 列処理に適した分子動力学手法を組み合わせたプログラム開発を引き続き行い,生体関連分子,金属クラスター,固体表 面反応等,化学的に興味ある大規模系の動力学研究へ応用する。また,波束動力学計算とMC SC F 直接法の併用により,4 原子分子以上の反応系において,基礎となるポテンシャル曲面を解析関数として最適化することなく,電子励起状態を含む 量子反応ダイナミックスの解析を行う。また反応のダイナミックスを理解する上で非常に重要なIV R の諸問題を,これまでと 同様に実現的な系の特徴を中心に考察してゆく。さらに簡単な量子カオス系との比較を行うなど,より基本的な物理概念とも 結び付けて発展させたい。